JRC蘇生ガイドライン2020を現在準備中ですが、その前に重要なトピック毎に科学的なエビデンスと推奨について、国際的な見解、JRCの見解を付けて紹介しています。

その根拠となっているのがシステマティックレビューですが、今回の評価に新たなレビューの方法が用いられています。スコーピングレビューとエビデンスアップデートです。解説を参照いただけますようお願いします。

スコーピングレビューとは

国際蘇生連絡委員会(ILCOR)は5年ごと、その間に発表されたエビデンスのシステマティクレビューを行いCoSTR(Consensus on Science with Treatment Recommendations、蘇生科学に関するコンセンサスと治療勧告)として公開し、ILCORに参画する各国のガイドライン作成に貢献してきました。2017年にそれまでの方針を変えて継続的にエビデンスを評価するプロセスに移行し、その都度CoSTRを発表し、重要なトピックは各国のガイドライン改訂に取り上げられました。この新しいアプローチでは、ILCORタスクフォースは、以前のCoSTRの再検討に足る十分な新たしいエビデンスが発表されたかどうか、または引き続き推奨の継続が可能かどうかを常に判断する必要があります。そこでシステマティックレビュー(SR)に次いで採用されたエビデンス評価方法として、スコーピングレビュー(ScR)があります。

ScRとSRの主な違いは、SRは明確に定義され絞り込んだ臨床的疑問に対処することにあり、一方ScRは、主要な問題と結果に広く焦点を当て広範囲に文献を検索し、その結果特定されたエビデンスを要約します。ScRが適用される場面は、一連の文献がまだ包括的にレビューされていない場合、またはSRを実施できない場合、たとえば解決したい臨床的疑問が広範囲で複雑なトピックの場合やエビデンスのばらつきが非常に大きい場合などがあります。SRの前段階として実施されたScRは、広範なエビデンスの特性を要約することによりSRへ進展できるか否かを判断することができます。またあまり検討されていないトピックについては、SRを行うチームが有用なエビデンスがなく効果的な作業にならないことを避けるのにも役立ちます。さらに、議論に透明性を提供するために、重要な問題を文書化することにScRを利用することもできます。

SRの結果によるGRADEに基づいたエビデンス評価なしに、ScR単独の結果を推奨の作成に利用することはできません。よってScRでは、評価されるトピックは、PICO形式で表現されますが、SRのようにバイアス評価、メタアナリシス、エビデンスプロファイルテーブルは作成されていません。

ScR適用の例

1)既存のCoSTRの推奨度の再検討

2010 または 2015 のCoSTR が存在する場合には、タスクフォース内での議論によりCoSTR の推奨度の再検討をおこなった場合。

表現例:

「このScRでは、前回のSRに追加する必要がある研究を特定できませんでした。このことを踏まえ、既存の CoSTR を変更する必要はないと考えます。」
「このトピックは、論文での論争が続いているため、タスクフォースによってScRが選択されました。」
「このトピックは、2010年以来ILCORによってレビューされていなかったため、タスクフォースによって再評価されました。」

2)ScRで特定されたエビデンスの要約

表現例:

「より具体的なSRを検討するには、十分なエビデンスが見つかりませんでした」
資料

1.ScRの方法論は、PRISMA extensionに基づいている

(http://www.prisma-statement.org/Extensions/ScopingReviews, Tricco AC, Lillie E, Zarin W, O’Brien KK, Colquhoun H, Levac D, et al. PRISMA Extension for Scoping Reviews (PRISMA-ScR): Checklist and Explanation. Ann Intern Med. 2018;169:467–473)。

2.Munn Z, Peters M, Stern C, et al. Systematic review or scoping review? Guidance for authors when choosing between a systematic or scoping review approach. BMC Medical Research Methodology. 2018;18:143.

3.相原は、ScRについて下記のように説明している。http://aihara.la.coocan.jp/?cat=471

スコーピングレビューは「入手可能な研究文献の総数や範囲についての目安を把握するための初期評価であり、研究エビデンス(現在進行中の研究を含む)の内容と規模を特定することを目指しているレビューである」。

エビデンスアップデートとは

 2020 CoSTRをサポートするエビデンス評価の3番目のタイプは、エビデンスアップデート(EvUp)です。 EvUpは、通常ILCORによって以前にレビューされたトピック(すなわち作成されたCoSTR)に対して実行されます。作業には以前のCoSTR作成で使用された検索式と方法論を使用します。 これらのEvUpは、タスクフォースのメンバー、協力する専門家、またはILCOR のメンバーである蘇生協議会の執筆グループのメンバーによって実行されます。 これらのEvUps は、特定されたエビデンスがSRを検討する必要性を示唆しているかどうかの注記とともに本文書の本文に引用されており、既存のILCOR 治療の推奨事項が改めて記載されている。EvUpにより、ILCORの治療勧告についての変更はなされません。 重要な新しいエビデンスが得られた場合には、タスクフォースはSRの検討を推奨します。

JRC蘇生ガイドライン2020編集委員会

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